2006年12月07日

被害者がぼろくそに言われる殺人事件

殺しといえば、普通は殺した方が全面的に悪い。同情の余地はほんのちょっぴりしかないか、全くない。これが相場です。

だって、被害者の人生にピリオドを打つ権利は誰にもないのですから。

それが、「被害者に懇願されてやった嘱託殺人」でも同じ事。ましてや、妻の不倫相手を殺したとなれば、多少の同情の余地はあれど、身勝手な同期に酌量の余地無し、ということで厳罰が下されるものです。


ところが、そうではない事件をたまたま、傍聴しました。


事案の概要を時系列に書くと(つまり、ちょっと回りくどいです)

1:被害者の男Aは加害者Bの幼なじみの友人である
2:Aは妻子ありだが、昔から素行不良で定職にも就かずぷらぷらしていた。親の財産で生活していた。
3:Bは毎日、朝から晩まで養鶏場で勤務していた。
4:Bの妻とAは、Bの不在をいいことに、不倫関係にあった。Bはそのことに気付くと、何度も「もうやめてくれ」と説得。にもかかわらず、いつの間にか不倫関係復活。こんな事が繰り返されていた。
5:その日、妻は「今日は焼き肉だから早く帰っておいで」とBにメール。Bはなるべく早く帰ろうと、仕事をフル回転でこなした。
6:帰り道を急いでいると妻が「今日は焼き肉やめたから。遅くなってもいいよ」とメール。
7:でも、仕事が終わったから、と家路を急ぎ、自宅(アパート)に着くと、駐車場でAとばったり出くわした!
8:「なんでここにいるのか。もう来ないと約束しただろ」などと口論。その場は収まった。
9:アパートの部屋にはいると、妻が裸同然の姿でいた。食卓には焼き肉を食ったあと。
10:Bはついに逆上し、台所から包丁を持ち出し、ちょうど車で駐車場を出ようとしたAにかけより、包丁で車の窓越しにめった刺し。Aは死亡した。


被告人のBは、背がちょっと高く、色白のやせ形で、根暗な印象。「しおらしい」を絵に描いたような態度を取っていました。あまり、まがまがしい雰囲気は伝わってきません。名前などを聞かれた時も、申し訳なさそうに答えました。

罪状認否では、Bは認めたのですが、弁護人が「殺意は否認する。殺すつもりで指したんじゃない」と殺人罪の成立を争う姿勢を見せました。


証人尋問で出てきたのは、Bの元職場の上司でした。恰幅の良い。温厚そうなオッチャンで、スーツが全然似合ってませんでした(爆) 作業服が似合ってると思われ(^_^;

●Bはホントにまじめな奴です。人がいやがる仕事を率先してやってくれ、職場の信頼は厚かった
●奥さんの不倫のことは悩み相談として受けていた。度重なる不倫に、職場のみんなは「そんな悪い奥さんと別れちゃえよ」と離婚を勧めたが、Bは「おれ、奥さんと子どものことが好きなんだ。愛しているから別れられないよ」と言っていた。
●「おれは、奥さんと子どものために一生懸命働くのが生き甲斐なんです」と常日ごろから言っていた。本当に奥さんと子どものことを愛していたようだった。
●確かにやったことは悪いと思う。しかし、よほどの事情がなければ暴力なんて振るわない。おとなしい性格だ。職場ではトラブルなどなかった。
●本人が弁護士さんを通じて、辞表を出して会社をやめた形になっているが、B君が社会復帰したら、是非、うちでもう一度働いてほしい。これほど信頼できる社員は得がたい人材だ。いつまでも待っている。

などと発言しました。殺人の前科が付くかもしれない人間に「是非もう一度来てほしい」とまで言わせる被告人B。相当、人はいいようです。

上司の証言の最中、Bは被告人席で申し訳なさそうな表情をしつつも、背筋を伸ばして話を聞いていました。
終わると一礼し、小声で「ありがとうございました」とあいさつ。その目には涙がちょっと浮かんでいました。

次に出てきたのはAの母親です。雰囲気は、細木数子のような感じ。横柄な態度がにじみ出ていました。

●ホントに親孝行な良い子だった
●我が子を殺され、喪失感でいっぱいだ。
●残された妻や子はどうなるのか心配。
●Bがにくくてたまらない。死刑にしてほしい。

などと語りました。「不倫」についての質問は「知りません」とスルー。ずるいオバハンです。


ここで裁判長、母親をキッとにらみつけ、いきなり調書の一部を読み上げました。

Aのちゃらんぽらんな生活態度だけでなく、何度も何度もBとの友情を裏切り、不倫を続けた行状などの部分です。その上で


「あんたの息子はこんな事をしていたわけだ。それでも、犯人を死刑にしたいと言い切れるのか!」

と怒鳴りつけました!



あの…




殺人の被害者の母親なんですけど…



いや、確かにイっちゃった母親でしたけどね。私はAのことはまったく知りませんが、何となく「この親にしてこの子あり」と思えるような気がしましたもん。



ちなみに、Bの妻は証言しませんでした。







で、被告人質問は別期日になってしまい、見逃しました。求刑は懲役13年でした。



迎えた判決期日。


裁判長はBの殺人罪の成立を認定し、懲役8年を言い渡しました。



ずいぶん軽くない?





と思ったら、判決理由がすごかった!



殺人罪の成立については「こんなにめった刺しにしているので、弾みで刺さるわけがない。傷の深さも相当深い」と理由を説明。その上で、情状について

*残虐な犯行だが、その動機には同情を禁じ得ない
*犯行の背景には被害者の背信的行為があり、被害者にも相当な落ち度があった

との理由で減軽したということです。


「背信的行為」とか「相当な落ち度があった」とか、

「被害者の方が悪い!」と言ってるに等しい判決理由でした。


すげぇ。


そして、判決後の説諭で、裁判長はBにこう、言いました。





「親友は真の友ではなかった。

愛する妻は良い妻ではなかった。

十分理解できるが、

殺害は許されない。

わかるね?」





Bは消え入るような声で「ハイ」といい、嗚咽を漏らしました。
弁護人にも声をかけられた後、腰縄手錠をかけられ、刑務官に抱えられるようにして法廷を出て行きました。

普通、裁判長からの説諭っていうのは、もっと無味乾燥なもので、形式的に「ちゃんと更正してね」というにとどまります。ここまで踏み込むのはきわめて異例です。


いやぁ、この裁判長の台詞、いいわぁ…。



これが今年で、もっとも心に残った言葉となりました。


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posted by こめろんぐ at 02:20 | Comment(12) | TrackBack(1) | 実録!?裁判傍聴日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
確かに人間臭い裁判長で、好感がもてます。判決を言い渡された方も納得では無いでしょうか。

許されざるはその奥さんですね。(被害者は死んだので…)

どんなに良い人間も、付き合う相手や結婚する相手を間違うと、人生はとんでもない方向に転がって行くと言う良い例では無いでしょうか…。恐いですね…。
Posted by 考える葦 at 2006年12月07日 12:27
この世知がない世情にあって見事な大岡裁きではないでしょうか?
それにしても、人の欲とはここまで他人を裏切り、ないがしろにできる物なんですかね?
きっと、Bさんの奥さんもこの後「ヘ」とも思わぬ人生を送るんでしょうね。
いやはや…
Posted by カンジ at 2006年12月07日 12:47
Bさんは一般的に言う「良い人」で
その行いも「一般的に良いこと」だったみたいですが
Aさん、そしてBさんの妻にとっては最良じゃなかったということかな
すれ違いや失敗は、多少なりともあるものです
大事なのは、直面した時いかに損失を低く抑えるか
Bさんは逆上して、殺傷能力の高い包丁を持ったのが判断ミス
何かに依存しすぎると、判断は鈍りがちになる一例でしょうか
Posted by あおい at 2006年12月07日 16:58
こんばんは。
たぶん私がBさんだったら同じ事してたかもしれませんな!でもその前に離婚してると思うけど(笑!)

ばか正直だったんでしょうね〜

それを考えると、この、妻とばばあにも判決が欲しいですよ!

裁判長でも、いい人?いるんですね〜(笑!)
Posted by デヴィッド at 2006年12月07日 17:37
考える葦さん>こんばんは!
この裁判長、パチンコで借金をふくらませた被告人に対して、妙に詳しい質問をするんです。きっと、趣味はパチンコだ!と勝手に想像しています。そんな世俗にまみれた裁判官がいても良いかな、と思わされますよ。
ちなみに奥さんとおぼしき人が、毎回傍聴してたんですよ。で、奥さんの前で、この台詞を言ったんです。すごいですわ。

カンジさん>どもです!
そう、奥さんとおぼしき女性は、裁判官から「よい妻じゃなかった」と言われても、冷静な態度を崩しませんでしたよ。コワー。
自分のために男が殺しをやったというのに…。たぶん、「屁でもない」という想像は当たっているのかも。

あおいさん>こんばんは♪
そう、Bさんにとっては「包丁を持った」時点でアウトだったんでしょう。それまで我慢して、説得してきたものがパアですから。
幸いなことに、社会復帰後はちゃんと、職場の人も支えてくれるようなので、人生を棒に振るところまで行かないところが、日頃の行いなんでしょうなぁ…。

デヴィッドさん>どもです。
いやいや、ここまでの悪妻?はあまりお目にかかれないから、ご安心を(^_^;
実はこの刑事裁判でわかったのですが、このばばあ、民事裁判で損害賠償請求をしているんですよ。Bさんに。
まあ、ここまでの刑事の判決が出たら「請求棄却」は固いでしょうけどね…。
Posted by こめろんぐ at 2006年12月07日 23:15
うーん。
すごい。
ドラマみたいな裁判長のお言葉ですね。
当事者たちにはどのように聞こえたのかは想像しきれませんが、
客観的立場の者の心には確実にじーんとくる言葉ですね。
Posted by ルビー at 2006年12月08日 00:16
こめろんぐさん、こんばんは。
私も同じような場面に出くわしたらBさんと同じことをしてしまうかもしれないです。奥さんや子供を愛していれば愛しているほど、受けた衝撃は大きいはず・・・。殺人をを肯定するわけではありませんが、その場面において冷静に客観的にふるまえるほど賢い人間ではないですからね〜、私・・・(^_^;)
Bさんは裁判長に言われたことは、分かっていたのかもしれない。。。裁判長はむしろ、Aのとんでもない遺族やBの奥さんに聞かせたかったのかもしれませんね。
Posted by guwa at 2006年12月08日 00:49
・・・、何とも言い難い話ですね。

しかし、「焼き肉だから帰っておいで」で、
Aと食べちゃった(って事だよね?)ってのはどうなんだろ?
Aは言うまでも無く、Bの嫁って・・・。
Posted by ジムカニアン at 2006年12月08日 09:04
きょう、こめろんぐは裁判っぽい証言したの?
ましてやこめろんぐは回転すればよかった?
ところがここまで関係する?
Posted by BlogPetのまめろんぐ at 2006年12月08日 11:31
ルビーさん>こんにちは。
この台詞を言っている裁判長、ちょっと自分の言葉に酔っていたのか、最後は照れくさそうに「わかるね」と言ってました。普段はもっと、ベランメエ調なんですけどね(^_^;

guwaさん>どもです♪
っていうか、巨匠がそんなことを言っちゃっていいんですか?(爆)
でも実際、同じ場面に出くわしたら、オイラも何をしでかすか分からないですね。 まあ、妻やBの家族もいましたから、ワザと彼らに言ったのかもしれませんが…。

ジムカニアンさん>こんにちは!
これ、ホントにとんでもない妻です。A「と」だけでなく、A「も」食っちゃったと…

お下劣で失礼しました(爆)
Posted by こめろんぐ at 2006年12月08日 11:38
これひどいですね。
こういう女、ムカツクわー。殴ってでも強引に謝らせたいね。

でもBさんのような凄く良い人に限って
悪い女につかまり、悪い女のせいで人生を棒にふり
それなのに悪い女はのうのうと生きる。
嫌な世の中ですな。
Posted by yu-ko at 2006年12月09日 10:29
yu-koさん>こんばんは!
世の中、ダメな男に惚れる女の子もいれば、その逆もいるようで。
ここまで言われた彼女が今後、どんな生き方をするのか。
嫌な世の中ですが、しょせんは因果応報。どこかで報いを受けると思うんですよね。それに早く気付いてほしいものです。
Posted by こめろんぐ at 2006年12月09日 21:40
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