その日の開廷表で目を引いたのは、被告人が男2人、女1人が一緒に裁かれている「詐欺」でした。
当時、「オレオレ詐欺」(振り込め詐欺とも呼んでますね)が大流行?していたので、これはそうなんじゃないか、と予想してみたのですが、これがビンゴ! 思いっきりオレオレ詐欺でした。
事件は大がかりでした。3人の上にボス?がいて、ボスが名簿や電話回線、架空名義の預金口座を用意。男一人が「息子」役で、もう一人が「警官」「弁護士」「被害者」などの役。女は「金の引き出し役」でした。
今回の傍聴記は息子役の「男その1」の話を書きます。
この男、驚いたことに
「借金が返せなくなって困っている。代わりに払って。300万円」
「事故を起こして相手にけがをさせた。治療代が必要だ。150万円振り込んで」
「トラックを取引先の門柱にぶつけて門を壊した。弁償しなければならない。250万円振り込んで」
こんなたわけた話を、被害者に電話の声だけで信じさせたんです。すごい演技力でびっくりしますわ。それで10人以上から3000万円もパクったというすさまじい事件です。
なんだか、ぐずぐず泣いて電話をして、信用させたという「男その1」。体格も姿勢もよく、丸刈りが似合う。スポーツをやってたのかなと思わせました。罪状認否ではすべての起訴事実を認めました。
で、冒頭陳述が終わったあと、弁護側の情状証人が尋問されました。証人の一人目は、男その1の父親でした。この人も背がすらっと高く、スーツもきれいに着こなして、絵に描いたような紳士。淡々と息子との関係や今後の接し方について語りますが、その文言よりも目についたのが、男その1の態度でした。
(つд⊂)グズッ。グズッ。
鼻をすする音が法廷に響きます。法廷は傍聴席が30人で満員になるような狭いもので、被告人の息遣いまで傍聴席に伝わるんです。で、男その1のすすり泣きで、お父さんの証言など印象が薄くて薄くて。大の男が女々しく泣いてるんですわ。かっこわるー。3000万円もパクッた悪人なら、悪人らしく堂々としてればいいのに。
男その1は結局、お父さんの証言が終わるまで泣きっぱなし。証言を終えるとうつむき加減だった顔を上げたのですが、大号泣ですよ。泣き崩れるとはこのことで。
泣くくらいなら、そんな犯罪するなよ。何回も繰り返して。
しかも、年寄りばっかりねらった、とんでもない詐欺事件だったわけだし。
同情の余地はありません。
さて、証人尋問が終わり、被告人質問になったのですが…まだ泣きっぱなしです。
弁「さっき、お父さんが証言してくれたけど、どう思った?」
男「自分が情けなくてしょうがないです」
弁「お父さんはもっと情けなかったと思うよ」
男「ハイ。子を持つ親の心につけ込むなんて、なんて卑怯だったんだろうと思います」
弁「あなたは【主犯のボス】に誘われてやったのね?」
男「ハイ。ですが、私が一番悪いと思います。何とか償いたい」
なかなか殊勝なことをいうなぁ。反省の情は十分か?と思えてきました。法廷の空気も、男その1に同情的になってきてます。
しかし、検察官の質問で、法廷のムードが一変しました。
検「で、被害者にいろいろ語って見せたけど、その語りは【主犯】の指示なの?」
男「いえ、自分で考えました」
検「結局は、積極的に荷担してたよね」
男「…申し訳ありません」
検「あなたがいろいろ、【共犯の男その2】に演技指導もしていたね」
男「…ハイ」
検「で、分け前は何に使ったの?」
男「ブランド品とか、競馬とか、女とか…」
検「償うっていっても、返す当てはあるの?」
男「…ありません」
ずっと泣きながらなんですが…
おいおいおいおい。話がいろいろ違ってきたぞ。
あ、そうか!
この手で被害者をだましたんだ!
やべぇ。うっかりだまされるところだった(爆)
こう思い当たるともう、男その1の殊勝な姿が嘘くさく見えてなりません。
傍聴席の雰囲気も、私と同じ気持ちになってきたような感じ。
がっくりうなだれる姿すら「それ、演技だろ」に見えてきました。
そういえば、裁判官は終始、厳しい目線を投げかけていましたね。なれてるのかな?
検「あなた、高校時代は野球やってたんだよね?」
男「ハイ」
お、やっぱりスポーツ選手だったか。それにしても、スポーツマンシップはどこへやら…と思ったら、検察官がとんでもない一言を吐きます!
検「甲子園にも出場したんでしょ?」
男「ハイ」
`;:゛;`;・(゜ε゜ )ブッ!!
ちょっ、待てい! 甲子園球児だったの!? しかも「出場した」ってレギュラーだったのか?
これはびっくりしましたよ。ええ。
検「そのころの自分が今の君をみたらどう思うだろうね」
男「昔の自分が見たら、今の自分は絶対に許せないと思います」
…( ´_ゝ`)フーン
いくら殊勝なことをいっても、もうだまされないよ。
法廷の雰囲気は、すっかり男を敵視するようになっています。
結局、この男その1には懲役10年が求刑されました。判決もみることができましたが、懲役8年を言い渡されました。
まあ、被害者だけでなく、法廷すらだまそうとしたようにも見えましたからね。多少、重くなってもしょうがないか。そんな風に思えた裁判でした。
